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第10回|増配に意味はあるのか

2018.10.12

 

 

昨今、日本でも「株主重視」の上場企業が多くなったと言われています。

この背景には、投資主体の変化やコーポレートガバナンスコードの改訂等の社会的変化があります。その結果、これまで欧米に対して比較的軽視されていた株主に対する姿勢が見直され、配当政策の在り方や具体的なビジョンの提示など様々な工夫がされるようになりました。

我々M&Sもその一翼を担うべく事業活動をしているのですが、第4回目のブログでご紹介した通り、特に投資先企業との対話を重視しています。

決算報告書等の開示資料を基に、今後の成長ストーリーや保有資産の使途等についてヒアリングし、企業価値向上に向けた戦略を双方の立場から議論します。

その中で、最近ある投資先企業からこんな意見を頂戴したことがあります。

「増配することが必ずしも企業価値向上にならないと思います。」

これは、当該企業が時価総額に対し過剰な内部留保を長年溜め込んでおり、本業とは直接的に関係のない非事業用資産且つ変動性の高い資産に過剰投資していることから、それらの資産を事業価値向上のために有効活用しないのであれば、増配という形で株主にいったん還元すべきだというのが我々M&Sの主張に対する回答でした。

果たしてそうでしょうか。

 

増配という株主還元策は企業価値向上に直結しないのか

 

投資先企業のこの主張は、F・モディリアーニとM・H・ミラーにより1958年に発表された企業金融に関する理論「MM理論」に基づいた考えです。
MM 理論とは、端的に表現するならば「負債資本構成は企業価値には無関係である」というものです。

いわゆる税金や取引に関わる諸経費が存在しない「完全市場」においては、資本構成(負債と株主資本の比率)は企業価値に影響を与えないとする第一命題と、投資政策に変更がなければ、企業の市場価値は配当政策によって影響を受けないとする第二命題から構成されます。

なんだかややこしい話に聞こえますね。
この二つの命題を分かりやすく説明するために、よく次のように例えられます。

第一命題:「1枚のピザを2つに切っても4つに切っても、ピザ全体の価値は変わらない」
第二命題:「あなたが会社の唯一の株主とした時、会社の利益を内部留保しようが、配当として個人に還元しようが、価値は変わらない」

(※ちなみに、現実では法人税などが存在する「不完全市場」のため、支払い利息による節税効果の観点から負債を持つ企業の方が企業価値が高いと言われます。)

つまり、「MM理論に立脚すると株価と配当の無関連性が証明される」ため、「増配することが必ずしも企業価値向上にならないと思います。」という主張をされた、ということです。

確かに、これをみると投資先企業のご意見には客観的な根拠があると言えます。
ファイナンス的には、増配も自社株買いも企業価値を高める直接的要因にはならないのです。

 

我々M&Sが増配を提案する理由

 

では、それにも関わらず、なぜ我々M&Sは増配を提案するのか、なぜそもそも企業は「株主重視」として増配や自社株買いを打ち出すのでしょうか。

答えは、人の心理が働く株式市場においては「定性的な観点」が重要になるからです。

それを踏まえると、先ほどの言葉は
「ファイナンスにおける定量的な観点からは、増配も自社株買いも企業価値を高める要因になりません。」
と言い換えることができますね。

我々M&Sは、増配や自社株買いが直接的に企業価値向上に貢献するものと捉えていません。しかし、それらが会社の「自信」や「株主姿勢」の表れに繋がり、株式市場ではポジティブに反応しやすいことは事実です。

例えば配当の場合、原則として毎年株主にインカムゲインとして還元するものです。そして、会社が増配を発表するということは、今後の業績に自信を持っているもしくは株主姿勢の経営を意識しているという表れであると言えます。

一方、自社株買いの場合は、会社が市場から株式を購入するものです。理由としては、現在の自社の株価が「割安」であると判断したからだと考えられます。つまり、今後自社の株価が上昇すると考えているからこそ購入したと考えられるのです。

両方とも会社の自信を裏付けることと言えます。

もちろん、これらに定量的且つ理論的な裏付けはありません。

しかし、いずれも会社が今後に自信を持っていることのシグナルであると考えられます。
投資家はこのシグナルを感じ取って株式を購入し、結果的に企業価値が上昇するということです。(※これをシグナリング効果と言います。)会社のこのような行動が、結果的に株主重視に繋がったと言えます。

 

そして、何度も繰り返し強調してお伝えしたいのは、

我々M&Sが提案する内容はそれ自体を目的とするのではなく、
企業価値向上に向けた手段の一つを提案しているということです

そこを是非ご理解いただきたいと思っています。

今回の投資先企業に関しては、長年溜め込んだ内部留保や過大な非事業用資産を保有しており、企業価値向上のための「シグナリング効果」を十分発揮できる余力はあると判断しました。ましてや、仮に我々の提案を実行したとしても、財務の健全性は十分保たれるのです。

 

上場企業である限り、企業価値及び株主価値の向上から目を背けることはできません。
企業価値を向上する余力を十分に蓄えながら、長年何も工夫をしないことは株主軽視です。

機関投資家の保有割合が比較的大きな上場企業はガバナンスを意識した経営になってきていますが、我々M&Sが主に投資している中小型市場においては依然として意識の甘い企業が散見されます。

我々M&Sはまだまだ影響力が小さいですが、我々の活動が少しでも市場に認知され、上場企業として本来あるべき姿になることを願います。

 

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